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ANCS事務局 清田哲男
(岡山大学教育学部美術教育講座)

2021.5.22

〇〇のおさんぽ

滋賀大学教育学部附属小学校 木村 仁 先生

絵本が大好きな小学校1年生の子どもたち。この日は、絵本「ぞうくんのおおかぜさん
ぽ」を読み聞かせました。このお話は、ぞうくんがさんぽ中、大風に吹かれて、仲良しの
、かばくん、わにくん、かめくんがごろんごろんと転がって、やがて一緒にさんぽに出か
けるというストーリー。お話の後、「もし大風が吹いたら、みんなは誰とおさんぽしたい
?」と投げかけると、「可愛いクマさんがいいな」「ぼくは恐竜に乗る!」と、一人一人
が、〇〇とおさんぽしたいという思いを膨らませていきました。「じゃあおさんぽしたい
〇〇を絵に描いて、本当におさんぽに出かけようか」と提案し、B5サイズのプラ板に思い
思いの〇〇をマーカーで描いていきました。


絵が描けたら、「みんなが楽しくおさんぽできるように、ここにおさんぽの続きを描こ
う」と、透明シートをいくつも張った場所に連れていきました。透明シートは、対象とな
る世界に入り込みやすいように、また実際におさんぽしながらイメージを膨らませること
ができるように、子どもたちが立った時の目線の高さに設置しておきました。子どもたち
は、おさんぽさせたい〇〇を透明シートに貼り、友達の表現と自分の表現との関わりを楽
しみながら、おさんぽ世界の続きを描いていきました。透明シートは双方向から描けるの
で、描いているうちに思いがけずお話がつながったり、影響し合ったりしていきました。


また、おさんぽさせたい○○は自由に動かすことができるので、〇〇をお気に入りの場所に
持っていったり、○○を手で動かしたりしながらお話づくりを楽しんだりする姿も見られま
した。

木村仁 小学校1年 〇〇のおさんぽ 概要

 

 

「創造力の紙」

西脇市立西脇東中学校 土本周平先生

 

教師「紙一枚で作品をつくろう」

生徒「何をつくるんですか?」

教師「この一枚の紙とハサミ、カッター、ボンドで作れるものならどんな作品でもいいです。」

「ただの紙を、皆さんのありあまる創造力で作品にしてください。」

「みんな同じスタートですが、皆さんの創造力がどう発揮されるかによって“答え”が変わってきます。みなさんのそれぞれの創造力あふれる“最高の答え”を楽しみにしています。」

 

この様な導入でスタートしました。題して「創造力の紙」。

材料はB4の真っ白な厚紙1枚だけ。使っていい道具はハサミ、カッターとボンドだけ。展示用に黒画用紙のステージを用意し、その上に作品を置くことにしました。

 

「勝手にしましょう」と放り出している様ですが、社会に出た時、誰も課題を出してくれるわけではありません。「自分で決め、自分で実行する」こと。「自由」を「暇」と捉えて潰してしまうのか、「自由」を「活用」するのか。義務教育終了を間近に迎えた3年生には、一度そういうことを考え、体験し、実感してほしいと思っています。

 

生徒は、まず何を作るか、何ができそうか、何を作りたいか…色々なことを考え、判断し、表現していきました。切ったり、ちぎったり、貼ったり、折り曲げたり、穴を開けたり、切り刻んだり、しわくちゃにしたり、水をつけてふやかしたり、傷をつけたり…様々な工夫が見られました。4時間の制作時間でしたが、4時間全てを使った生徒もいれば、3時間悩み、考え、試作し、残りの1時間で完成させた生徒もいました。それぞれのペース、それぞれの制作手順です。

 

ある生徒は1時間まったく手が動きません。何を作っていいのか、どうすれればいいのか、全く分からず、突然無人島に放り出された時のように戸惑い、立ち尽くし、自分の手に残った一枚の厚紙だけが風に揺られている…。そんな感じでしょうか?しかし、そんな生徒も何かを決意したかのように手を動かし始めます。その瞬間、その生徒の中のこれまでの経験や知識・技能が総動員され、創造力が発揮されるのではないでしょうか?限られた条件の中でテーマの設定から表現まで全責任を自分が負う。もちろん、完成した作品によって得られる達成感も、あるいは納得のいく作品ができなかった時の後悔も、すべて自分のものです。

また、ある生徒は嬉々として作り続けます。その生徒にとって一枚の紙は自由の翼です。自分の考えやイメージを自由に表現できる喜び。怖いぐらいの集中力で作品制作に没頭します。

完成した作品はジオラマ、抽象的な立体、心象風景、工芸、デザインなど様々なものができあがりました。

 

はじめはみんな同じ一枚の紙であったものが、一人一人の創造力によってこんなにも多様な作品となる。そのシンプルな面白さに改めて私自身が気付かされた授業となりました。

また、限られた条件の中で、自分の創造力を発揮し、最大限の工夫を凝らし、最高の答えを出すこと。そして、その多様な答えを認め合い、楽しむこと。これは美術の授業内だけで完結する価値ではなく、どんな人にとっても、どんな時代になっても大切な価値だと思います。

ある生徒は感想に「やっぱりクラスのみんなの創造力はすごいなと感じました。この創造力の紙というのをしてみて、最初はみんな全く同じだった一つの白い紙が、何時間後には全く別の物に生まれ変わっていて面白いなとも思ったし、楽しいなとも感じました。1つの物から作るということで、とても考えられました」と記しています。

この経験がこれからの人生のささやかな助けになればな、と願っています。

 

2020.7.24

形と色彩の自分年表

岡山市立福浜中学校 松浦 藍 先生

 

第3学年の生徒は、形と色彩で自分の人生を表す「年表」を制作する活動に取り組みました。生徒には四つ切の画用紙を手渡し、「この画用紙に、自分の人生の年表を描いたら、どんな年表になるでしょうか?言葉を使わず、形と色彩で表してみましょう。」と伝えました。

写真1

 

支持体である画用紙は好きな大きさに切ってもいいですし、描画材は絵の具、色鉛筆やカラーペンなど使いたいものを使ってよいことにしました。それは、自分の年表を生徒自身が自分の生き方から、クラスメイトの生き方に思いを馳せます。

写真2

 

そして、3時間をかけて年表を制作した後、制作が始まると、「俺は流れ星みたいになりたいんよ」、「私ってこんな感じじゃないかな?」など、思い思いに語り合っていました。特に印象的だったのは、悩んでいるAさん(写真3右)に「Aはのんびりしとるんじゃし、丸で描いたらえんじゃね?」と声をかけるBさん(写真3左)の姿でした。Bさんの言い方はぶっきらぼうでしたが、Aさんはとても嬉しそうで、止まっていた手が少しずつに動き始めました。

写真3

 

生徒たちはクラスメイトの年表になったのかがとても気になったようなので、相互鑑賞を行いました(写真4)。相互鑑賞では、B5用紙にカラーコピーした年表を、A3のコピー用紙に貼り、その余白にお互いにコメントを書き込みました(写真5)。クラスメイトが制作した年表を鑑賞し ながら、「きっとこの時恋人ができるんよ。色がHappyだもん。」「え!これってどういうこと?この人に何があったんじゃろ?」と作者であるクラスメイトの生き方に思いを馳せていました。

写真4と写真5

 

 これらの生徒の姿から、自分や周りの人の生き方を考えたり、目に見えないものを形と色彩から感じ取ったりする経験は、自分や周りにいる人への理解に繋がると改めて感じました。ただ、自分や他者の生き方とは、すぐに理解できるものではありません。だからこそ、自分から色々なことを感じ取り、分かろうとする姿勢が必要なのだと、生徒たちに気づかされた授業でした。

 


2020.2.12

紙パレット展

岡山大学教育学部附属中学校 武田 聡一郎 先生

生徒が授業中に制作で使用した紙パレットを展示する「紙パレット展」を常時美術室で行っています。
この展覧会を始めた理由は、出来上がった作品だけではなく、作品ができあがるまでの過程を生徒に見てほしいとの思いからです。
最初は、展示ボードに練ゴムで貼っていましたが、現在はより手軽に飾れるようにするために、教室にナイロン線を張って、クリップで留めるようにしています。
紙パレット展をしてみると、「このパレットすごい!」や「この色いいなあ」といった反応がありました。
普段捨ててしまうかもしれない紙パレットの中にも、多様な混色や筆致の跡がうかがえて、個性が光って見えます。
互いの個性の光に気付くことが、学び合いの始まりであり、彼らの成長のために、とても大切なものだと考えています。
生徒たちは自分とは違う紙パレットを見て、一人ひとり異なる使い方から互いに表現したかったことや工夫の楽しさについて気づき、自分の表現についてふりかって考えていました。